『ウクライナ侵攻から考える、世界平和を祈る神道の心』
坂井 美春
令和四年七月十一日、深志神社斎館にて「ウクライナ勉強会」が開催された。講師の坂本龍太朗氏は、ポーランドのワルシャワ日本語学校で教頭として勤める傍ら、ウクライナ避難民への支援活動を行っている。当日の講演は、オンライン形式で実施され、県内より十四名、東海地区より六名の参加があった。
ウクライナに関する報道は、日に日に減少している。時間の経過と共に、興味や関心が薄らいでいくのも無理ないが、報道がされない日も、ウクライナの人々は、昼夜問わず攻撃に怯えながら暮らしている。遠い世界の話ではなく、いかに自分事として捉えるか、又、支援物資を送る際には、今、何が必要とされているのか、現地の状況を具体的に想像して、行う必要があると、坂本氏は述べる。
ポーランドへの避難民の多くは母子であり、父親は軍隊に入隊、又、避難が出来ない高齢者は、ウクライナに取り残され、家族は離れ離れの状況にある。坂本氏は、避難民の受け入れや、物資を届ける中で、子供の教育活動を重視している。子供は、ウクライナの未来を担う存在であり、過酷な戦禍であっても、パソコンを用いたオンライン授業等、学びの場を提供している。
ポーランドとウクライナは、民族的な共通点がある一方、言葉や文化の壁もある。異国で生活していく為に、子供達は、他国語を学ばなくてはならないが、たとえ祖国を離れていても、心は常にウクライナを向いている。言語を学ぶ事は、祖国を捨てる事になると捉える人もおり、葛藤を抱えながらの避難生活を余儀なくされている。「目の前の苦しんでいる人を助けたい」その一心で、坂本氏は支援活動を続けている。
支援の種類には、長期的なもの、短期的なもの、又、子供の世話や買い物を代行する「しやすい」支援と、ウクライナに残った子供へ物資を届けるというような「するべき」支援とがあり、優先順位を決めて活動を行っている。支援物資は、衣類、食料、簡易コンロ、寝袋等の衣食住だけではなく、スマホ等の情報機器、赤ちゃんのオムツやおもちゃ等、様々である。日本からの物には、日の丸国旗のシールを貼り、渡しているそうだ。そうする事で、遠い日本からの支援である事が子供にも伝わり、精神的な支えになるという。
勉強会の後、今、自分に出来る事として、ロシアとウクライナの歴史や宗教について調べてみた。民族と宗教を巡る問題は、日本人にとっては馴染みが薄いが、世界に視点を拡げると、歴史的にも度々争いの種となっている。プーチン大統領は、今回の軍事侵攻の目的を、「モスクワ正教会から離脱したウクライナの正教徒を救済する為」と主張する。東方正教会内部の対立、又、正教会とカトリックの確執等、同じキリスト教徒でありながら、教派の違いによる対立は、数百年続く課題であると知った。
最後に、世界平和を望む神道の教義について記す。神武天皇の「橿原奠都の詔」には、平和国家建設を目指された、人道主義の精神が示されている。その内容は、「全ての民族が、あたかも一軒の家に住むように、仲良く暮らすこと」即ち、互いに対立するのではなく、相互に協調し、繋がり合うという、肇国の精神が掲げられている。昭和十五年の昭和天皇の御製には、「西ひがしむつみかはして栄ゆかむ世をこそ祈れ年の初めに」とあり、東西問わず、世界の人々と相互扶助して生きていく世の理想が謳われている。又、「敬神生活の綱領」にも、「国の隆昌と世界の共存共栄とを祈ること」とあり、人類の福祉・幸福を増進する事は、神道の使命であるとする。決して他人事ではなく、宗教に携わる者として、世界平和を望む神道の精神、大御心を、一人でも多くの人と共有したいと感じた。